2018年1月16日火曜日

白洲ジープウェイレター誤訳

10数年前ですが、斎藤兆史著『英語達人列伝』(中公新書)を読んでいたら、以下の文言がありました。吉田茂の番頭役で、同じく英国かぶれだった(?)白洲次郎が、1946(昭和21)年2月15日、GHQ の C. Whitney に宛てた、通称 ‘jeep-way letter’ の一節(下線は私が施しました)。

He is as anxious as you are, if not more as after all this is his country, that this country should be placed on a constitutional and democratic basis once for all as he has always deplored the unconstitutionality of the nation.

この文が、著者の訳では:

ご自身の祖国ということもあって多少は慎重であるにもせよ、常日頃からその非立憲制を嘆いておられた身、これを機会に民主主義に則った立憲国家を樹立したいという同じ願いを抱いておられます。

となってたんです。下線部分の解釈を間違えているために、文意そのものが妙な具合になっちゃってんですよね。文体自体もちょっと野暮ですけど(なんちゃって)。因みに‘He’とは松本丞治大臣(商法学者)のことだそうで。

さて、この ‘if not more’ を、なぜ素直に「それを凌ぐのでなければ」と読まなかったのかが不思議。穏当にそう理解すれば文全体が随分明確になる筈。よくある言い方です。 ‘concessive conjunction’(譲歩接続詞?)の辞書的な、あるいは教科書的な定型(?)をなぞったつもりだったんでしょうが、文意ってもんがあろうぜ、と思わさる能わず。修正を試みるなら――

常日頃から日本人の非立憲制を嘆いておられた身、ここで一挙にこの国の基盤を憲法と民主主義に据えてしまわねばならぬとの思いは、何と申しましてもご自身の祖国のことですから、貴方に勝るとも決して劣るものではありません

……といった塩梅でしょうか。ほんとは同じ文言を使わず全部書き直したいところなんですが、対比の便からも、そこはまあいいでしょう。

この英文、多少は大時代であるにもせよ(ちょっと真似てみました)、在宅仕事でよく見る原稿などよりよほど理路整然、滔々たるもんです。これなら翻訳もやりがいがあろうというもの。

どのみちやりたかねえけど。

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