2018年2月18日日曜日

明朝体が何だって?

3年前の2015年2月、SNS上の友達の投稿記事に対し、いつものように迷惑を省みることもなく、以下の長文を書き込んでいたことに気づきました。我ながら相も変らぬ無用の容喙、多少忸怩たるところもありつつ、またぞろここにそれを掲げようという、重ね重ねも無用の所行。毎度すみませず。

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【前略】……というお人の書き込みを見ていたら、以下の記述に遭遇〔当該の記事は削除済みの模様〕

〈明朝体の「明」って昔の中国の明のことでしょ。江戸幕府なんか影も形もない頃だよ。アタマの悪すぎるツッコミだこと。〉

……で、これは下記のニュースに反応したもの:

〈NHK大河ドラマ『花燃ゆ』に日本語学者がツッコミ「幕末の書物にパソコンの明朝体フォント?」〉

時事的な事柄については何ら言うべきことはありませんけど(定見というようなものが見られませんね)〔←この投稿者の他の記事について言ってたんだと思います……って、これ自分が書いたんですけどね〕、こういう考証ネタに知りもしないでエラそうな「ツッコミ」をされると少々腹が立ちます。

そもそもこれ、いったい誰に対して言っているものやら、どうも判然と致しません。「ツッコミ」なる文言はこのニュースの見出しにあるもので、その学者氏自らが「ツッコんでる」なんて言ってるわけじゃないし……などとわざわざ言うのもダルい限り。いずれにしろ、明王朝の終焉は崇禎17(1644)年、清朝の順治元年で、日本では寛永21年、将軍は既に3代家光の頃です。江戸幕府に影も形もないなら、家康、秀忠、家光ってのはいったい何者だったと言うんだか。

それよりこの記事にある「明朝体」がそもそも何なのかまったくわかっていないようですね。蒙は必ずしも愚の表れではないにしても、やはりフツーに暮らしていればこれが活字の書体名であることぐらい、誰でも知ってるいわゆる常識ってやつではないでしょうか。この記事にある日本語学者、飯間浩明氏がツイッターで指摘したのも、「パソコン用のフォント」が時代劇の小道具に使われていたという疎漏であって、「明朝体」という活字書体の区分名に意味があるわけではないのは明らか……などと言っても、「アタマの悪すぎ」ない方には通じないようで。

因みに、活字の明朝体は、江戸時代どころか明治以後のものですが、その書体自体はその遥か以前から使用されています。ただし、早くも家康の頃に活字は存在したとは言え、結局実用には至らず、印刷と言っても長らく手書き文字を利用した木版ばかりではありましたけれど。いずれにせよ、この記事が紹介していた苦言は、手書きか印刷かなどはおろか、書体のデザインのことですらなく、戦後の国字改革の結果普及した現代の字体(活字に関しては書体と別概念)が幕末の書物に使われていたことに対するものであるは歴然……だと思うんですがねえ。

さてそうなると、この「ツッコミ」がいったい何に対してのものなのか、ますますわからなくなるのですが、とにかく〈明朝体(という書体;字体ではなく)の「明」が昔の中国のことで、江戸時代なんか影も形もない頃〉などという文言だけで、その蒙昧ぶり(根本的なアタマの悪さとはまた別に)は充分明らかなのではないかと。

蛇足ですが、印刷・出版業界では明朝を「ミン」、ゴシックを「ゴ」と略称しますね。それぞれ欧文活字のRoman、Sans-serifに相当します。後者のサンセリフとは、「セリフ(ヒゲ)なし」の意。【後略】

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……てな塩梅。ほんと、毎度すみません。

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