2018年3月11日日曜日

バックビートがロック?(12)

早速ロックとロックンロールについての無駄話を再開。

Wishbone Ashと同じく、ツインリードで成功した「ハードロック」バンドのThin Lizzyが、まだトリオの時代に発表した ‘The Rocker’ って曲にも、 ‘I'm a rocker, I'm a roller too ...’ てな歌詞が出てくんですけど、やはりおよそお馴染みのロックンロール調とは隔絶した事例。もちろんドラムもギターも、何よりフィル・リノットのベース、ボーカルも、呑気にバックビートだけ強調してるなんてこたありません。それじゃとてもハードになんざ聴こえませぬて。

おっと、このPhillip Lynott氏、日本でも初めは「リノット」って言ってたのに(ローマ字読みってことでしょう)、いつの間にか「ライノット」という誤読が定着しちゃって、またもウンザリ。アメリカじゃあこのアイルランド語の名字、「ライ……」ってほうが普通らしいんですが、イギリスや、何より地元のアイルランドでは圧倒的に「リ……」なんですよね(たぶん)。本人が「ライ……」と名乗ってた、って話もウェブでは広まってますが、それ、明らかに渾名をもじった洒落のようなもんですから。

渾名の1つが ‘Why-Not’、「もちろん」ってやつ で、それは酒を断るなんてあり得なかったところから、ってんですね。それより、女には困ったことがなく、いつでもよりどり見どりだった……らしいってところから、 ‘Line-Em-Up’(並ばしとけ)って渾名が付き、「ライノット」は自らそれをもじったものだったのだとも。

                  

どうせまた脱線しちゃったんだから、ってことで、この話は終いまでしちゃうことに致します。

実はあたしも、日本に帰ってきたらみんながこの人を「ライノット」って呼んでるし、テレビとかでときたま耳にする英語の発音もそうだったので、てっきりそれがほんとなのかと思っていたところ、20数年前、東京で新聞配りながら日本語学校通ってたっていう、5つ年下の英国人の友人には即座に「リノット」って訂正されたのでした。別にそいつがアメリカ人じゃなかったからってだけじゃなく、実はこの人、30数年前のシン・リジー解散後、新バンド創設を目論んでいたリノットのオーディションに受かり、プロのドラマーへの道が拓けたかと思う間もなく、当のリノットが急死したため夢破れてしまったいう不運なやつだったんです。つまり、直接本人と接したそいつが言うんだから、ライノットじゃなくリノットだってのは疑いようもなく。

まあその前に、盟友ギャリ―・モー(ったって誰だかわからんでしょうけど、いわゆるゲーリー・ムーアです。その「日本名」には本人も草葉の陰で苦笑してそう)だの、アメリカ人であるスコット・ゴーハム(ゴラム?)だのを始め、シン・リジーのメンバーやリノットの知人は、例外なく「リノット」って言ってんですけどね。自ら「ライノット」と名乗ったってのは、やっぱり洒落だったってことで。

ああ、そのギャリ―、おっとゲーリーについても、そのイギリスのダチとのやりとりで意外なことがございました。日本のロックギター好きにはむしろ常識に類する情報だと思うんですが、長年紛争の絶えなかった(ごく一部の地域ですけど)北アイルランド生れなんですよね、この人。でもそれをそいつに話したら、「そりゃ違うだろう」って言われちゃって。「アイルランド訛りなんかねえぞ、あいつ」ってんですよね。そうか、「標準語」なのか、あの人、ってのはわかったけど、そもそもどこの生れかなんてのはまったく気にしてなかったってことなんでした。それが英国流ってやつなのか、そいつ個人の性格によるものなのかはわかりませんが、別の機会には、あたしが日頃のエラそうな言動とは裏腹に、お互いの認識の齟齬について、「俺は日本人だからな」って言った途端にちょいと呆れたような表情を見せ、「お互いどこの国の人間かって前に、まず俺でありお前だろうが」と指摘され、そりゃそうだと少しく反省したのでした。

因みに、日本ではアイルランドって言うと、国名、すなわちアイルランド共和国のことを指し、この「ゲーリー・ムーア」のことも、アイリッシュって言うと、「北アイルランドはイギリスだろう」などと訂正してくださる方もいらっしゃり……ダルい限り。「イギリス」って名称もまたいったいどこを指すのか判然としないけれど(語源はポルトガル語の ‘inglés’ で、「イングランドの」「イングランド語」「イングランド人」、要するに ‘English’ のこってすぜ)、とにかく ‘Ireland’ ってのはあの島全体の名前であって、アイルランド共和国のみを指すわけではない、ってことが日本ではわかってない人が存外多くて……っていう毎度の愚痴。どうでもよござんした。

                  

とりあえずThin LizzyのPhil Lynottに関する限り、やはり「ライノット」じゃなくて飽くまで「リノット」であり、日本だって初めのうちは(ローマ字式っていう怪我の功名で)正しくそう言ってたものを、アメリカ発音を聞き齧ったかなんかで生じた勘違いがその後盤石のものに、ってところではございましょうや。

そう言えば、数年前に他界したClaudio Abbadoって指揮者のことも思い出されます。最初はよく「アバード」とか「アッバード」って言ってたのに、気がついたら頭高型の「アバド」になってたのもこれと同工……じゃなくて、こっちは逆か。後からローマ字っていう勝手な国語表記に無益な義理立てをし出したような。英語でも「アバードウ」だけど(‘-do’ は二重母音ってことなんですが、日本では普通こういうの、「ドー」ってことんなってて……などと、一応言いわけしときました)、イタリア語のIPA表記を見ると「アッバード」ですぜ、どう足掻いても。まあ、いいんですけどね。毎度のことで。

おっと、リノット関係では、もひとつネットのカラ知識がありました。これもまたまったくどうでもいい無用の情報ではありますが、この人、アフリカ系アイルランド人ってのが最大の売りではありながら、生れたのはイギリス(イングランド)で、リノットは母方の名字だってんですよね。父親はブラジル人の船乗りっていう噂もあったようだけど、バーミンガム出身とかいうアフリカ系英国人(多くは西インド諸島系)で、すぐに行方不明となり、マンチェスター在住の母親に代って、アイルランドの祖母がこの人を育てることになったんだそうな。何やら、ジョン・レノンと通底する生い立ちにも見えます。ロックスターとなる上では恵まれた境遇……ってこともないでしょうけれど。

                  

いい気になって逸脱ばかりしているうちにまたちょいと長くなっちまった。まだまだ言及したきことは尽きませず、次回も引き続きこの調子で。他の「臨床例」も示したいところだし。

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