またもチャック・ベリーのカバー、今度は ‘Roll over Beethoven’ をダシに、もひとつ屁理屈を捏ねてやろうてえ魂胆。57年発表の ‘Rock and Roll Music’ の前年、56年の作なんですが、ビートルズはそれを同じく7年後の63年、つまり ‘Rock and Roll Music’ を取り上げる前年、セカンドアルバムに収録してるんです。ジョージが歌ってんですが、こっちは翌年の ‘Rock and Roll Music’ とは裏腹に、チャック・ベリーのオリジナルよりややテンポは遅め。だから、ってこともないのは、速めに演奏された ‘Rock and Roll Music’ の事例から既に明らかではありますが、これもまたオリジナルの「バックビート」ぶりが相対的に稀薄なんですよね。飽くまであたしの勝手な了見(偏見)ではございましょうが、だってそう聴こえるんだから仕方がない。
つまりテンポも無関係だったというわけなんですが、単純にドラムが全体にハードだから、とか、スネアに対してキックが比較的強いから、ってことでもないでしょう。やっぱり拍の微妙な長短の問題なんでしょうか。機械ならぬこの身なれば、そいつぁ聴いたってわかりゃしませんが(絶対リズム感ってなもんがあればわかんでしょうけど)、とにかく、バックビートたるオフビート(強勢弱拍、ってあたしが勝手に言ってるやつ)に負けず劣らずオンビート(強拍……ったって、弱勢ってことんなってんですがね、ロックでは)も強烈ってところは変らず。オリジナルとのノリの差は歴然(?)。
ついでに申し添えれば、かの ‘Johnny B. Goode’ とよく似たイントロのギター、こちらはチャック・ベリーのオリジナルだと最初の小節は8分3つごとのアクセントすらなく、1拍め以降(前置きのアップビートは除いて)、1小節ずっと、次の小節の頭まで同じ「強さ」です。ジョージはそれを、 ‘Johnny B. Goode’ 的な、グリスアップによる2つ置きの強勢を施して弾いてんですけど、それが曲全体のノリに何ら影響を及ぼしていないのもまた明らかかと。全部あたしの勝手な言い分に過ぎないことは、重ねて申し添えておきますが。
いずれにしろ、特に独自のアレンジを加えたわけでもなく、どちらかと言えばかなり原曲に忠実な演奏でありながら、下拙には両者の相違は灼然炳乎、との思いもだし難く(無理やりそう思い込んでんのかしら)。頭を上下させてリズムを取ろうとすると、オリジナルでは「バックビート」の作法どおり2拍4拍でノっちゃうのに対し、ビートルズのほうは、手拍子につられるわけでもないと思うんですが、どうしても4拍全部で顎が動いちゃうんですよね。俺だけなのかな。
ドラムの音量の配分や音質だけが、この「古式ロックンロール」と「新時代のロック」とを画する要因でないことは既述のとおりですが(自分自身が恣意的に書いてるうちにそういうことんなったんですけど)、とりあえずドラムの使い方、分けてもスネアとキックを容赦なく強調する演奏形態については、やはりビートルズが先駆者的な位置を占めるのではないか、って気も致しまして。
ビートルズ、またはリンゴ・スターを「前ノリ」だって言ったり、その対極(サイモン・カークとか?)を指して「後ノリ」だの「タメが利いてる」だのと言ったりするのも、基礎を成す拍がまず均等で、それを基準にすればこそ成り立つロックなリズム……なんじゃないかとも。で、その「均等なビート」の元祖がビートルズ……とか?
相変らず科学的、客観的な根拠に欠ける勝手な思い込みの類いではありますが、ビートルズ、あるいはリンゴ・スター関連の古いインタビュー記事などを見ますと、何となくそんな雰囲気もなくはないんですよね。前回も申しましたとおり、録音された実際の音としてはビートルズが自分の知る最古の例、ってだけのことなんですがね。
68年に初版が発行された、 Hunter Davies 著 ‘The Beatles’ の、10周年記念改訂増補ペイパーバック版ってのを、たまたまロンドン暮しの2年めに学校近くの本屋で見つけて迷わず買って読んだところ、その中で言及されていた(と記憶する)逸話がございまして。どうもリンゴは、ビートルズとは対バン関係にあったハンブルク時代、PAなどない環境でとにかくデカい音を出さなきゃならないため、自然キックもそれまでの標準より強くなっちゃった、とかいう話なんですよね、「いや、それやり出したのは俺だ」って異を唱えてたのが、デビュー直前でそのリンゴにすげ替えられたビート・ベストだとも。
ジョージは対バンのドラマーだったリンゴの演奏に惚れ込んでいて、そのため、これからってときにクビにされたピートのファンからは、実際にかなりの危害を加えられたってんですが、解雇事由だと思われているドラマーとしての力量云々は表向きに過ぎず、とにかくキャラがつまらない(妙に真面目で洒落が利かない)ってところが他の3人にはずっと前から不満だったというのが実情らしい。当人にはまったくその意識がなく、他に常任のドラマーの当てもないからよんどころなくズルズルと一緒にやってただけ、ってのにもまったく気づかぬまま、デビュー前に突然マネージャーのブライアン・エプスタインから解雇を告げらることに。そりゃショックだったでしょうな。
もっと早いうちにそれを言わず、デビューが決った後でエプスタインの口から言い渡して貰った、ってのがジョン・レノンの人格的弱さの表れ、てなことも言われてますね。ピートには何の意趣もなかったエプスタイン氏も、やはり地元リバプールのピートファンにとっては怨嗟の的となってしまい、とんだ貧乏くじ。何よりも、ビートルズ随一の二枚目だったというピートの代りが、普段は無表情で無愛想でチビのリンゴだったってのが、以前からの地元ビートルズファンの間に無用の軋轢を生むに至ったとも。
またしてもそれは関係なかった。ひとまず「古式バックビート」とビートルズのノリの違いについてはもう少し例示しておきとう存じます。ほんとはビートルズ対チャック・ベリーってことじゃなくて、60年代的「新」ロックと50年代の「旧」ロックとの対比が趣旨であり、ビートルズはたまたま自分の知る「新」の側における最古の例だってだけなんですけど、何せ40年来のファンでもありますれば、もうちょっとビートルズによるカバーを論っとこうかと。
今度はリトル・リチャードの ‘Long Tall Sally’、「のっぽのサリー」ってやつについてひとくさり。オリジナルはベリーの ‘Roll Over Beethoven’ と同年、56年のヒットだてえんですが、ビートルズ版は8年後の64年発表ですね。少年時代のポールがリチャードのボーカルを真似て歌ってたら、元セミプロのボードビリアンだった親父が、いくらなんでもそんなひどい声の歌手がいるわけがない、と思っていたところ、後に本物が歌ってんのを聴いて、ポールが実はそっくりにやってたってことがわかって驚いた、てな話が件の ‘The Beatles’ って本に書いてあったと思います。
それはさておき、英米ともに人気絶頂にあったビートルズ(アメリカの少女ファンのほうがより狂的だったようで)版「のっぽのサリー」、もちろんボーカルはポール。いずれにしろ、これも一聴してノリは違いますね。
リチャードのオリジナルだって、当人がピアノ弾きなんだからアレンジの違いは当然あるにしても、なんせ初めの3小節はダウンビートだけにドラムが鳴らされるってぐらいで、決してスウィング的な偶数拍だけのノリってこたありません。それでもやっぱり、いわゆるエイトビートの刻みが始まると、2拍4拍の強勢は自然に感じられるところ。まあそれこそがロックンロールのバックビートってやつなんでしょうけれど、ビートルズがやってんのを聴くと、その「長閑な」ノリ方じゃあ何となく置いてきぼりにされちゃう感じ、とでも申しましょうか、とにかく各小節ともまたぞろ1拍めからかなり強烈なんですよね。やっぱりそれはあたしだけの勘違いなんでしょうか?
ドラムのキックは特に強烈ってこともないので、ベースやギターのせいなんですかねえ、それ。あるいは本当に拍ごとの時間配分の問題? テンポはほぼ同じで、ビートルズのほうがちょっと遅いぐらいでしょうか。既述の如く、テンポと強弱の違いはとりあえず無関係とは思われるのですが。
えー、続いて、ジョンの熱唱が光る ‘Dizzy Miss Lizzy’ と 原曲 の聴き比べを。65年発表の、映画に付随するアルバム ‘Help!’ の最終曲(埋め草?)で、 ‘Yesterday’ の次ってのがちょいと粋だったりして。これ、オリジナルは58年のLarry Williamsで、テンポはビートルズより遅めながら、YouTubeで聴いてみたと、イントロから存外ハードですね。特に本人が弾く8分のピアノはかなり強烈だし、アール・パーマーのドラムも派手で、しかもハネてんですねえ。カッコいい……けど、やはり全体に偶数拍に重みがあるのは当時の作法どおり、ってところでしょうか。
ビートルズのほうはてえと、リトル・リチャードとの違いとも通底するように、ギターバンドならではの、あるいは60年代的な(?)全面的激しさは歴然。やはり1拍めから強烈……ってのも、またぞろあたしの勝手な思い込みかも知れないにせよ、これもまた ‘Roll over Beethoven’ カバーの手拍子同様、4拍すべてにカウベルが「均等」に入れられ、ひょっとしてバックビートだけ目立つのはダサいとでも思ってたのか、ってほど。さすがにこれは本気じゃありませんけど。
さてもう1つ、今度はナツメロではなく、当時のコンテンポラリー、デビュー年度の62年にアイズリー・ブラザーズ(the Isley Brothers)でヒットしていたという ‘Twist and Shout’ などを。
R&RではなくR&Bってことんなりますが、これ、オリジナルはさらに前年の61年、the Top Notesというグループによるもので、まだ二十歳だったフィル・スペクターのプロデュースだったってんですけど、ビートルズが真似たのはどう足掻いたってアイズリーのほう。YouTubeのありがたさで、売れなかったそのオリジナルも初めて聴いたところ、テンポは随分と速く、全体にかなり軽い感じ。てより、メロディーから何から相当に異なり、即座に同じ曲だとは思えないほどでした。「ツイスト」っていう踊りにはよく合う……のかも知れません。
アイズリー・ブラザーズにはこの後、かのジミヘンが短期間断続的に伴奏メンバーとして参加していたとのことですが、先般のジミヘンコード談義でちょこっと言及たとおり、もちろん誰もその力量には気づかぬまま。まあそんなことより、まだジミヘンとは無関係の ‘Twist and Shout’ の話。
トップノーツのオリジナルに比べるとだいぶテンポは遅く、その分グッとお洒落にビートを利かせてはおり、ギターのコードは2拍4拍ともにダブルバックビート式に、8分2つずつ鳴らされております。ビートルズ版も基本的にはこちらを踏襲したものであるは明白、ってより、ほんとのオリジナルは知らなかったんじゃないかと。
そのビートルズ版ですが、シングル用に既に録音済みだった4曲を除く10曲を、文字どおり半日、12時間で録ったという、63年のファーストアルバムの末尾にして最終収録曲がこの‘Twist and Shout’なんですね。ジョンの鬼気迫る伝説的シャウトは。喉が疲労の極にあったための怪我の功名、などとも言われておりますが、ドラマーのリンゴもこの最終曲の時点では体力の限界に達していた、とは本人の弁。ジョンがこれを最後に録音することにしたのは、これを歌っちゃったら声がくたびれ切って、あとはもう何も歌えなくなるのがわかってたから、とのことです。いずれにしろ、全曲紛う方なき1発録りで、ライブバンドとしてのビートルズの凄さを感じさせる逸話ではあります。演奏は下手、などとほざいていた昭和の評論家どもの間抜けさよ、と思わざる能わず。
ともあれ、趣旨は飽くまでリズム、全体のノリでございました。それについても、やはりそれまでのライブで自然に培われた強烈なビートが遺憾なく発揮された結果がこのアルバム、分けてもこの ‘Twist and Shout’ だったのでは……ってのは今思いついて書いてるだけなんですけどね。それでもビートルズが準拠したであろうアイズリーのやつと比べると、やはり全体的な激しさは歴然で、それこそが身上といった風情。
テンポもかなり速めではあるけれど、何よりも、やはりバックビートの強烈さに勝るとも劣らぬオンビートの強さ、ってところが決め手って気はします。と言うより、ビートルズの後でアイズリー聴くと、何だか妙に間延びした感じ……って、そいつぁ大きなお世話か。
えー、この他にも類似の比較対照は可能ではありましょうが、とりあえずビートルズネタはこれにて打止めと致し、次回は他の「ロック」勢、つまり「ンロール」の付かないことになっているビートルズ以外(以降?)の50年代カバーについてもいくつか見てみようと存じます。これ、やってみたら結構思ってた以上に違いが大きくて、ちょっとおもしろくなってきちゃったもんで。まあ、どのみちあたしの勝手な了見に過ぎないわけではありますが。
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