2018年3月16日金曜日

バックビートがロック?(18)

前回の ‘レノン版 ‘Ain't That a Shame’’ から3年後、1978(昭和53)年に、Cheap Trickが同年春の武道館ライブを収めたアルバムを発表し、それが当ってこのバンドも世界的に認知されるに至った……ってのも夙に伝説とはなっておりますが、当時ロンドンで暮していたやつがれは、シングルカットされた ‘I Want You to Want Me’ のヒットぶりをラジオで知り、その前年春、渡英直前に渋谷陽一が新人バンドとして紹介したのを聴いて気に入っていたため、何となく勝手に嬉しくなったものでございます。

その話じゃなかった。ええと、このチープ・トリックがそのライブで ‘Ain't That a Shame’ やってんですよね。レコードだとB面の1曲めだったと思うのですが、あたしが最初に聴いたのは、レノンのやつと同様、かなり経ってからで、82年に友人からレコード借りるまでは、こんなナツメロやっていたとはつゆ知らず。CD買ったのはそのさらに10数年後でした。

で、そのCDを、たぶん10年以上ぶりに聴いてみたところ、これもまたレノン式の、てえかそれよりよほど容赦のないエイトビートのハードなノリで、テンポはさらに速め。やはりキックの4つ打ちを基盤とするロックなイントロが、ライブならではのやりたい放題といった風情でひとしきり続き、歌が始まるまでは何の曲かわからないってほど。とにかくその長めのイントロ部分が、ビートルズ以来の(?)4拍全強方式で、ベースもギターのパワーコードも8分均等の刻みという具合。

4つ打ちキックに重ねた結構ヘビーな断片的ドラムソロから始まり、次いでベースとコードの刻み(ボーカルのロビン・ザンダーも弾いてんですね。見ちゃいないけど)、その後にリック・ニールセンが断片的なソロを加える、って寸法なんですが、そのソロが70年代ハードロック風かと思いきや、実は開放弦を利用した50年代ロカビリー的な16分6連フレーズ(1拍6等分)の連続技で、聴いてるとつい弾きたくなっちゃうハードかつ軽快な心地よさ。

曲の後半にはギター2つによる短いソロの応酬なんかもあったりして、なかなかに凝った演出ではあります。間奏部分では、それこそ初期ビートルズっぽいダブルバックビート(ベンチャーズその他、エレキもの全般の作法?)も交え、ギターのフレーズには ‘Please Please Me’ の前奏も出てくるという、緻密にして奔放なるライブアレンジの妙、ってなところ。

武道館と言えば、例のディープ・パープル、 ‘Made in Japan’ からこのときは「わずか」6年後、ビートルズからでもまだ12年後だった勘定になるんですが、この歳になると今さらのように驚いちゃいますね。当時二十歳前だった自分にとっては、いずれも相当の大昔だったとは申せ、このチープ・トリックなんかは結構最近のような気がしたりして。寄る年波ってなこんなもん……って、そりゃ関係ないか。

                  

ともあれこのチープ・トリック版、ほんとはもっといろいろ細かい趣向を凝らしてたりもするんですが、原曲の長閑さとは対極のハードな軽快さを叙するのが狙いでしたので、この事例についてはここまでと致しとう存じます。とにかくまあ、これまたバックビートだけじゃあノってらんない(かどうかは人それぞれですが)「全拍強勢」の好例、ってことで。

ナツメロにおける新旧の対比と言いながら、例示した中では何気なくこれが初めてのアメリカ勢でしたが、もちろん何ら他意の如きものはございませず。てえか、ビートルズが「新」のハシリか?って話(になっちゃってるよう)だし、どうしてもイギリスのほうに傾いちゃう……んじゃなくて、あたしがハナからブリットもの好きだったんでした。ジミヘンだってイギリス行って浮ばれたし。

                  

さて、この曲については、今ひとつカバーを挙げて締め括ることに(今)致しました。このさらに10年ほど後、ジョンにだいぶ遅れてポール・マッカートニーも録音してたんですね。検索してたら見つかったんですが、それ、実は知りませんでした。

88年発表とのことで、またも既に30年前ではありますが、オリジナルからその当時までが30数年。70年代にはとっくに古典だったわけだし、やはり60年以上も前ってのは歴史に属する古さ。でも30年前だと、もうこの歳になれば既に「ちょっと前」って雰囲気だったりして。そりゃ俺だけか。

とにかくこのマッカートニー版、レノンやチープ・トリックのような「現代」アレンジとは裏腹に、とりあえず拍子はグッと原曲寄りになってはおりました。テンポも、ファッツ・ドミノのオリジナルほどではないけれど、かなり遅めではあります。意外……でもないのかも知れませんね、ポールの性向からすれば。知らないけど。

これ、前2者と何より異なるのは、基本的に原曲どおりのシャッフル……とはちょっと違って、ハットはどうも「中抜かず」の3連ではあるものの、いずれにしたってよりオリジナルに近い、かなり古風な風情であるには違いなく。

と言いながら、やはりバックビートだけでノろうって気にはならない、奇数拍のベースやキックの強さは相変らず(ドミノ版はキック殆ど聴こえないし、生ベースもやっぱり相対的に弱いし)。そりゃ何たって、デビュー時からその強勢強拍、つまりは「4拍全強ノリ」の主犯だったビートルズの1人なんだから、至極当然とも言えましょうが(どうせ言ってんのはあたしだけでしょうけれど)。

                  

あ、ひとつ意外だったのが、 ‘ain't that a shame?’ の冠詞 ‘a’ を、アフリカ系たるファッツ・ドミノが毎回素直な長音階上の音程で歌っているのに対し、ポールは半音下げたブルーノートで、それはロビン・ザンダーもほぼ同じ。両者とも後半に行くほど歌い崩してくんですが、そのブルーノートについては終始一貫。ジョンだけは、2回続けて出てくるこのフレーズの1回めをファッツ式に半音下げずにやっているものの、2回めは ‘ain't’ から決然たるブルーノート……でした。

あたし自身もここは半音下げるのが当然の作法だろう、と思い込んでいたので、オリジナルがそうじゃなかったってのは軽い驚き。欧州人種である3人のほうがよっぽど「黒っぽかった」ってところに、時代の趨勢ってなもんが感じられたりして。そりゃまた大袈裟か。

                  

えー、かかる仕儀にて(毎度無意味な言辞、何卒ご容赦くだされたく)、この曲についてはこれまでと致し、ってより、50年代オリジナルと60年代以降のカバーによる新旧ロックの比較は、これにてお終いということに。

でもビートルズが本当にその「新」の嚆矢であったのかどうか、ってのがちょいと気になったりもするし、次回もまた勝手に考えを巡らしてちょいと書き散らす予定。たぶんそれでこのダラダラと無駄に長いだけの話にも漸く終焉が訪れるのではないかしらと。……甘いか。

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