2018年7月25日水曜日

改めて「時制」または ‘tense’ について(9)

マッカーサーの名文句なんぞについて要らざる御託を並べてしまったがために、前回は随分と話が逸れてしまいましたが、英語助動詞の4箇条てえもんについてひとまず話を続けます。

この4つの特徴、英語の文法書などではだいぶ以前から、 ‘NICE properties’ などと、多分に駄洒落的な用語で言及されておりまして、 ‘NICE’ はその4要素の頭文字を繋げた造語てえこってす。すなわち、

 Negation(否定)
 Invertion(倒置)
 Code(符号)
 Emphasis(強調)

の最初の文字をとって並べたという寸法。で、3つの ‘primary verbs’、すなわち

 be
 do
 have

の助動詞用法や、9つの ‘(main) modals’、

 shall
 should
 will
 would
 can
 could
 may
 might
 must

については、ひとまずどれもこの4箇条に合致するのに対し(‘be’ は助動詞じゃなくてもそうですけど、昔はすべての動詞がそうだったてえことで)、二次的 modals とでもいった次の4つ

 dare
 need
 ought (to)
 used (to)

は必ずしもそうではない、ってところがちょいと違ったりもするんですが、その、素直な助動詞とは言えないってところに関しても、4者それぞれにまた独自の事情がありますようで。
 
                  

まず最初の2つ、 ‘dare’ と ‘need’ ですが、3つの ‘primary verbs’ とは言わば裏腹に、意味はそのままで、助動詞ならぬ ‘full verb’ としても使われるところがなかなかの役者。 ‘primary verbs’ の場合は、前回申しましたように、助動詞としては明確な意味を持たない、ってところが違うんです。

あとの2つは、いちいち ‘to’ という ‘particle’ を挿入しないことには、本動詞たる不定詞を連ねることができません。最後の‘used’ は 「堅気」動詞 ‘to use’ の ‘past tense’ とは異なり、/juːzd/ ではなく、形容詞(「慣れてる」)と同じく /juːst/ と発音されるのですが(形容詞の場合は、それに付される ‘to’ が普通の前置詞であり、その後には目的語たる名詞が置かれ、動詞なら -ing 形にしなくちゃなりません)、見たとおりの「過去形」ではあり、専ら過去の習慣、状態を表すのに使われる、つまりは姿形も意味も「過去」しかない、という次第です。眼目は、単に過去ってだけじゃなく、その後状況が変り今はそうではなくなってる、ってのが前提といったところ。

もう1つの ‘ought’も、意味としては他の ‘modal’ と同様、単体では専ら現在への言及に用いられるのですが(‘ought to have done’ ってな言い方も頻出)、元は ‘own’ や ‘owe’ の古形、‘agan’ の過去時制 ‘ahte’ に発するとかいう話です。「支払いの義務がある」ってほどの意味だった時代もあるとのことですが、いずれにせよこれもやはり元来「過去形」ではあるのでした。

この2つについては、助動詞とは言い条、いずれも ‘particle’ たる ‘to’ が必須、ってことなんですが、そのため、その ‘to’ までを込みにして1個の ‘modal’ と説いている場合も少なくありません。

‘ought’ のほうは、 ‘to’ が必須とは言っても、件の ‘NICE properties’ を備えてはいるようなので、まあ助動詞、と言うか ‘modal’ の一種として認めてやるのも吝かに非ず、ってところであるに対し、 ‘used’ のほうはその点でも不徹底で、まあ時代を経るうちに誤用が慣用化した事例の1つなのでしょうけれど、 ‘dare’、 ‘need’ の如く、疑問や否定に‘did’ だの ‘didn't (= did not)’ という別の助動詞を用いた ‘full verb’ 的なところもあり、つまり助動詞としても本動詞としても、‘to’ は必須というわがままなやつなんでした。既述のとおりどのみち「過去」しかありませんし。

ついでなので、その不徹底ぶりを例示致しますと、基本的には、

 Used you to do ...?
 I used not to do ... または I used to not do ...

であるべきところ、それは既に少々古めかしい言いようで、

 Did you used to do ...? とか Did you use to do ...? (発音はいずれも /juːstə/)
 I didn't used to do ... とか I didn't use to do ... (同上)

という、ちょいと間尺に合わねえ言い方のほうが普通になってんです。 'd' を除いて ‘use’ だけにするのは、表記上の辻褄合せの所産に過ぎず、音は結局堅気動詞の /juːz(d)/ との峻別の上からも、 /juːs(t)/ としかならないわけですが。

あと、忘れてたわけでもないんですけど、旧来の否定形 ‘used not’ の縮約形は ‘usedn't’ で、発音は /juːsnt/。旧来とは言っても、これは未だ充分現役ではあります。でもまあ、現代におけるもっと無難な言い方としては

 I never used to do ...

ってのがありますね。それが一番穏当かも知れません。

とにかくこの ‘used (to)’ ってやつは、こうした曖昧さ、不徹底ぶりの故、 ‘marginal modal’ とすら認め難い、ってんで、 ‘aspectual verb’ あるいはいっそ ‘aspectualiser’ って括りで扱う、って流儀もあります。「(叙)法」ではなく、完了だの進行(=未完了)だのを表す動詞の一派、って理屈。

……などと、つい ‘modal’ としてはむしろおまけのようなこの ‘used (to)’ なんかに引っかかっちゃいましたが、既述のとおり、こいつは形でも意味でも過去しかないという特殊な例ではあり、本来 ‘tense’ 談義であった筈のこの愚文における意義としては、話者にとっての「現在」とは切り離された事象、この場合は単純に「今」とは隔絶した文字どおりの「過去」ってことですが、とにかくまあそういうものに言及する形には違いなく、 ‘marked tense’ たる「過去時制」であることには違いなく……てなところかと。

何やら、逸脱ばかり重ねていることに対して今さらながら弁解を試みようとしているような気もしてきました。話がまとまらないので、ひとまずは ‘modals’、「(叙)法助動詞」についての与太話を終えるよう努めることに致します。
 
                  

やっぱり話の順序が錯綜気味で申しわけございませんが、前回、 ‘modal (verb)’ ではなく ‘modal idiom’ という区分が充当される例として、 ‘have got (to)’ と ‘have (to)’ ってのを挙げとりました。この2つ、意味はほぼ重なるとは言え、形の上ではお互いちょいと別枠なんです。前者のほうがよっぽど助動詞的な性質が濃厚でして、 ‘NICE’ 4箇条に照らせば、

 You haven't got to go.
 Have you got to go?
 I've got to go, but you haven't.
 Yes, you have [got to (go)].

と、とりあえずは適合しそうではあるのに対し、 ‘got’ のないほうは、少なくとも現代語としては、

 You haven't to go.

だの

 Have you to go?

とはまず言わねえ、ってところが違うんですね。だから、助動詞か否かを論ずるにしても、両者は自ずと別ってことにはなるのですが、たったこの2つの例だけでも、一緒に括れるかどうかは見方によって揺れ動く、ってなことでして。

ほっとくとどんどん理に合わなくなってくっていう自然言語の宿命、ってのも大袈裟だけど、こういう、体系的な理論にスッキリ収まらない事例は、当然我が国語とて枚挙に堪えざるところ。かかる事象に対し、どういう理屈で辻褄を合わせるかってのもまた、各文法屋の流儀の違いということにはなりましょう、ってね。
 
                  

何だか、また話が長くなっちゃって、既に忘れかけてましたが、 ‘ought (to)’、 ‘used (to)’ の2つとは対照的に、その前の ‘dare’ と ‘need’ は、現在にも過去にも(未来にも)言及し得るのみならず、どちらも既述のとおり一般の ‘full verb’ としての用法もある、ってところが、半端ってより過剰かも、ってところなんですけど、実は最初の ‘dare’ がより曲者だったりして。

まずは、比較的素直な ‘need’ のほうからちょっとだけ説明しときますと、

 Need you do that?

とも

 Do you need to do that?

とも言えば、

 You needn't (= need not) do that.

とも

 You don't (= do not) need to do that.

とも言うってことなんです。意味は変りません。口調の違いってことで。でもまあ、疑問や否定以外では、あんまり助動詞のほうは使わんでしょう。非助動詞としては、‘to do’ という ‘to-infinitive’ の名詞用法ってやつを目的語とした他動詞、と見なすのが、まあ普通の了見ではないかしらと。

それ自体の姿は肯定形だけど、 ‘hardly’ だの ‘seldom’ だの、それこそ ‘never’ だのといった否定的な副詞と抱合せで実質的な否定を表す例も少なくはありませんね。加えて、いわゆる複文における従属節内、たとえば

 I wonder if it need be so.

だの

 I was told I need do noghing.

だのって例からも、実は否定や疑問に限るわけではない、ってことにはなりそうですけど、それだってアメリカじゃあまず使われない言い方だてえし、イギリスでも助動詞ではなく堅気の他動詞として、つまり ‘need(s) to be ...’ とか ‘need(ed) to do ...’ ってほうが普通っぽい、ってのが実情ではあるような。
 
                  

おっと、思い出した。ときどきこれ、

 You didn't (= did not) need to do that.

という ‘full verb’ のほうの否定過去時制は「必要がなかったからやらなかった」場合に用い、やっちゃったけど必要なかったってときには、

 You needn't've (= need not have) done that.

と、助動詞を使った表現にして言い分ける、って説かれてたりもします。でも実際には、後者だって

 You didn't need to do that.

ってのは極めて普通なんですよね。ただしその場合は ‘need’ をことさら強調して言わないと意思は伝わりません。自分もよく、「やんなくてよかったのに」って場合は、

 You didn't NEED to!

って言ってたような(それよりゃ ‘didn't HAVE to’ ってほうが普通っぽいか)。何よりこれ、必要の有無はともかく、実際にやったかやらなかったわからない場合だってあるわけで、その場合はよんどころなく ‘didn't need to ...’と言っとくしかないわけですし。つまり、 ‘needn't've done’ は専ら無駄な努力に対して用いられる表現であるのに対し、 ‘didn't need to do’ のほうは、純粋に必要性の不在を述べてるだけ、ってことで。
 
                  

どうも、言わずと知れたわかり切ったことをくどくどと述べているような気が致します。いずれにしろ余談でした(毎度長くて恐縮)。

どうせ余談には違いありませんが、この ‘need’ に比して、その前の ‘dare’ がどう厄介かという話もしときます。ほんとはこれ、番外的な叙法助動詞についての解説が趣旨ってわけでもない(筈な)ので、極力概要を述べるにとどめ、細目には触れないよう努めると致します。上述の ‘need’ についてさえ、「比較的素直」だとか「ちょっとだけ説明」だとか言っときながら、結局随分と諄い話になっちゃったし。
 
                  

……と言いながら、やっぱりまたもちょいと長くなっちゃったんで、この先はまた次回ということで。いよいよ講釈師の手口にさも似たることんなってますが、どうぞ悪しからず。わざとじゃないんです。無計画ってだけで。

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