2019年2月4日月曜日

誤訳邦題など

英語の歌の邦題というやつ、今どきはそのままカタカナにするのが前より普通だったりするから、昔ほどトンチンカンな例は目立たなくなりましたが(ほんとか?)、たとえばプロコル・ハルム(プロウクル・ハラム?……などと、つい無駄な悪足掻きをしたくなっちゃって。どうせ似非ラテン語だけど)の「青い影」ってのも、まったくの誤訳ながら、あれは怪我の功名とでも称すべき見事な日本題(?)。

原題は、それが狙いなんでしょうけど(?)結構長くて、無理やりまとめれば「青白さがより強く」みたような感じ。ちょっと違うか。いずれにしろ ‘pale’「蒼白な」と ‘shade’「色合い」(てえか顔色)を、辞書的な、あるいは中学生的な感覚で、「青い」とか「影」とかにしちゃったんでしょうね。「青」はまだしも、誤訳にしたって ‘shade’ のほうは「陰」なら穏当にしろ「影」(そりゃむしろ「光」に近いような)はねえだろうに……とは思えど、「青い影」っていうキッパリした言いようは、歌の題目としては図らずも秀逸……だったりして。どのみち意味はわかんねえにしても。
 
                   

今回なんでこんな話をする気になったかと言うと、実は元の英語の意味より、母語たる国語の認識にちょいと故障が感ぜられる、ってより、明らかに「おめえそりゃおかしいだろ」って人たちがときにおりまして……ということを思い出しちゃったからなんでした。

類似の事例は結構あるんですが、1つ例を挙げれば、ビートルズ初期の曲に、邦題「ぼくが泣く」ってのがありまして、中学の時分にはそうなのかと思ってたけど、歌詞がわかるようになると、どうしたってその「が」はヘン、ってことは明白。「ぼくが」の「が」は「主格助詞」などというやつで、そう言った途端に、誰かは知らないけれど、とにかく「ぼく」以外の誰でもなく、この「ぼく」こそが、「泣く」という用言に対する「主体」てえかその動作主である、ってことを宣言するが如き語……などと、自分で書いてて、こりゃひでえや、って思わざるを得ないくだくだしさではあるけれど。

ともかくこの歌、 ‘I'll Cry Instead’ ってのがほんとの題名なんだけだと、その ‘instead’ 「~の代りに」を、誰かの、ってより「君の」ってことなのか、と思ったとしても責めるには当らないとは申せ、歌の文句を聞けば、この「代りに」は、誰か他者に対してではなく、動詞の ‘(wi)'ll cry’ のほうにかかってるのは明白。つまり、「そうは行かないから(代りに)泣くしかない」てな歌なんだす。またぞろ強引な和訳ですが、前後の文脈を端折るなら、まあそうしといたほうがわかり易いかと思って。

そうなると、「(誰でもなく)ぼく『が』」ってのが間抜けなのは歴然。「ぼくは」、つまり「俺がどうするかと言えばそれ『は』……」という「係助詞」でなくちゃ間尺に合うめえ、と思って、ずっと前にそれを、英語の歌詞の該当部分を引用しつつ、結構懇切丁寧に説明してやったにもかかわらず、「でも自分はその場合、『が』って言うんだけど」と返され、ギョッとしたのでした。

あぁた、それじゃどういうつもりでものを言ってんのか誰にも通じまいよ、とは思ったけど、恐らくそいつ、こっちの話が根本的に理解できていなかっただけなんでしょう。いかに文法を知らず、たとえ言語処理能力がごく希薄ではっても、その「が」と「は」が無意識に使い分けられないんじゃ、そりゃもう日本語が母語であるわけはあり得ませず。

何よりその人、普段の会話では難なく意思の疎通ができてましたから、要するにこっちが何やらエラそうに(?)講釈を垂れたことが気に障ったあまり、闇雲にこっちの言い分を全否定しにかかっただけなんじゃないかと。てなことも、その後数々のわからずやどもに揉まれた今だからこそ思うことであって、当時はあまりの滅裂ぶりに、何なんだこいつは、としか思えないのでした。

でも、そもそもなんでそいつにそんな話をしたかと言えば、だってビートルズファンどうしだったんだもん。俺のほうこそ、音楽に比べれば歌詞の内容なんざ特に気にしちゃいねえってのにさ。ま、これに類するちょっとした、あるいは驚くほどズレた邦訳ってのは、今でも根絶とは程遠く。

う~む、またもくだらぬものを書いてしまった。しかたがねえか。
 
                  

くだらぬついでにさらなる蛇足を1つ。件の「青い影」、米人のウィリー・ネルソンも間違って歌ってましたけど、ほんとはチョーサーからパクったとかいうネタなのを、 ‘miller’ を ‘mirror’ と聴き取る人が、昔から地元の英国には多く(/l/ の音韻には英米ともにそれぞれ異同があり、「英」のほうが全般に「希薄」ではあります。 /r/ はもっとそうですけれど)、この歌のサビは「白雪姫」の話に違いない、と思ってる人が未だに絶えないのだとか。あたしもそう思ってました。

やっぱりくだらなかったな。ま、どうせいつものこって。

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