またぞろ SNS に投降したネタを横着にも流用:
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自宅から徒歩数分のドン.キホーテ(看板を見たら「・」ではなくこういう表記でした)は、1階が主に食料品、2階がそれ以外の日用品売場で、いずれもかなりの広さなのですが、その2階に行くと、各区域ごとに連日連夜途切れることなく決ったBGMを流していて、自分が最も頻繁に通り過ぎる辺りではそれがビートルズの ‘Help!’ なんです。
それで思い出したこの曲の歌詞の謎ってのがありまして、またぞろ無益なるは承知の上で、それについてひとくさり記したくなっちゃいました。謎ったって、それ自体はとっくに氷解しとりますので、もはや謎でも何でもなくなってんですけど、まあちょいとおもしろい……かも知れない話ではあろうかと。
その(かつての)謎ってのは、1st verseってんでしょうか、いわゆる1番の冒頭からいきなり始まりまして、レコードやCDの歌詞カードとか「ビートルズ詩集」のような書籍の類では昔から見慣れた、言わば公式(?)の文句と、実際に録音されているジョン・レノンの歌が違うんです。内容ではなく、音声というか発音に明らかな齟齬があるということなんですが、それをドンキホーテ(いろいろ厄介なので句点は敢えて省略)の店内BGMで想起したという次第。
では早速その音声上の謎ならぬ齟齬について申し上げます。気づいたのは二十歳前後で、イギリス住んでる間でした。この歌自体は中学の時分から知ってたけど、音声の違いなどわかる筈もなく、年相応のなんちゃってカタカナ英語で勝手に歌ってただけでした。自分では本物の発音がどうなってるかなんて考えようにもそれに足るだけの知恵もなく、歌詞カードにあるやつを疑う余地とてなかったわけです。
いったいその齟齬は奈辺にありや、てえと、‘younger’が/jʌŋɡə/(北米訛りだと/jʌŋɡɚ/)たるべきところ、その/ɡ/が聞こえないんです。宛然現代国語音における問題(なのか?)とは裏腹に、鼻音化せざるべきガ行音が鼻濁音になっちゃってるような塩梅で、/jʌŋə/と言ってるんじゃないか、って感じ。
この部分は、まさに冒頭でして、‘When I was younger, so much younger than today ...’の最初の ‘younger’だけ「鼻濁音」になってんですね。2つめもちょっと曖昧だし、英語も日本語と同様、人により、土地によって発音が変り、こういう語についてはもともと何でもかんでも鼻音だけ(/ŋ/)だったり、逆に全部鼻音の後に国語におけるガ行音が付随した/ŋɡə/だったりするようではあります。辞書が採用する標準音は/ŋɡə/で統一されておりますが。
中学の頃には知る由もなかったけれど、この種の比較級(longerとか)は、原級たる‘young’だの‘long’から想定されるべき音とは異なり、標準的には例外なく/ɡ/が挿入されることにはなってます。そうではなく‘longer’を/lɒŋə/とか/lɑːŋɚ/と発音すると、それは‘to long’という動詞(‘Yesterday’の一節、サビの末尾が‘Now I “long” for yesterday’だったりするし、‘to long to do ...’という常套句もあり)の派生形で、つまりは「切望者」みたようなもん。
で、歌詞カードその他ではどれも形容詞‘young’の比較級を繰り返してるわけですが、前述の如く、レノンの歌を聴くと、1つめの‘younger’の‘-ng-’は/ŋ/だけで/ɡ/が発音されていないんでした。2つめもそうだったら、リバプール弁でもこの種の語における/ɡ/は欠落する、ってことになりましょうか。そこはどうもはっきりとしません。
怖い蟹……じゃねえや、此は如何に、ってなもんで結構長年の謎だったのですが、これが氷解したのは、既に20年ほど前だったか、NHKのテレビ観てたら、英語番組だったのか音楽番組だったのか、はたまたビートルズ番組だったのかは覚えちゃいない(初めから知らない)けれど、この歌に字幕が付されてまして、それが‘When I was young and so much younger than today’となっていたのです。
ああそうか、そりゃそうだな、と即座に納得したのは、音声だけではなく、歌詞の流れとしてもそっちのほうがよほど滑らかだったからです。「公式」の歌詞だと、「若い頃、今よりずっと若い頃」ってな塩梅で、そりゃちょいと下手なんじゃねえか、とは思われます。一度で済む言葉を無駄に重ねてるような。二度目はちょっと大袈裟にしてるってだけで。
それが、件のNHK式だと(ほかでは見たことないから、たまたま制作者の中になかなかの知恵者が交ってたとか?)、「若い頃、しかも今よりずっと若かった頃」とはなり、単純に文意がより締まる、って気がするんですよね(俺だけ?)。
いずれにせよ、実際の音声と夙に流布する文字列との違いを気にしなければ(母語話者も大半は無視してるようですが)、歌詞の滑らかさになど思いも及ばなかったわけで、このような自分の性格(なのか?)は果して歓迎すべきものなのか否か、ちょいと迷うところではあります。
……というだけのつまんねえ話でした。相済みません。
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