2018年11月5日月曜日

英語の名前とか(18)

ちょっと立て込んでて、だいぶ間が空きました。

前回までは、英語の名字における第4の区分、先祖の渾名に由来するという事例のうち、「鳥」の名が名字になっているものをいくつか恣意的に取り上げた……つもりだったのが、多くは渾名由来ではなかったというのが実情。とにかくも、トリ系については何とか終幕には至ったという次第にて。

今回は、言わば落穂拾いとでもいった風情で、これまで触れていなかった部類についてまたも恣意的に述べ、それでこの「英語の名前とか」などという曖昧な表題の駄論群全体にも引導を渡してやろうとの所存……ではあるのですが、果してそうは行きますものやら。まあ何はともあれ、って感じで、とにかく書き継ぐことには致します。
 
                  

さて、前回までの記述で何度か「動植物」なる表記を用いておりましたが、「動」のほう、すなわち「鳥獣」に比して、「植」たる「草木」の名称が名字になっている事例は何だかパッとしません。てえのも勝手な言いぐさだけど、「木」に由来する名字は大半が第2区分の「土地型」のようだし、「花」の名が名字になっているものも、あまり渾名って感じでもないようでして。

「木」と言えば、 ‘Nash’ だの ‘Rock’ だのってのが実はそうだった、って話は先般致しました。「草」ならぬ「花」ならば、実はそのまま ‘Flower’ って名字もあるんですが、当面の主旨である第4区分の渾名系よりは、第3区分の職業系に該当する事例のほうが多いようではあります。渾名とすれば、まあいずれ容姿や心根についての譬喩であろうとのつまらねえ、おっと、穏当な部類ということで。

「花」と訳されるこの ‘flower’、中世までは表記も語義も ‘flour’ と未分化とのことで、1200年頃には、古英語や古仏語の名残をとどめるかのように、 ‘flour’ のほか、 ‘flur’ を始め、 ‘floer’、 ‘flor’、 ‘flowre’、 ‘floyer’ などの表記が見られるそうな。現代仏語の ‘fleur’ も同根ということが知れます。

古仏語では既にその意で用いられていたというのですが、英語でも14世紀末には「最高潮」とか「最盛期」、あるいは「最高峰」だの「精髄」だの、つまり「一番いいところ」といった譬喩的用法が認められとのこと。たとえば ‘flour of milk’、「牛乳の花」が「クリーム」の意なんだとか。穀物の精製品である小麦粉も、言わば収穫物の精華という点で ‘flower’ の一種というわけですが、やはり14世紀末にはこちらを専ら ‘flour’ という表記で区別するに至った、ということのようで。
 
                  

眼目は飽くまで名字としての ‘Flower’ でございました。問題は、渾名ではなく職業由来の場合、その職業が何かってことなんですが、まあ昔だって「花屋」はいたでしょうけれど、やはり「粉屋」ってほうがより実際的な感じは致します。そうなると、純然たる第3区分の ‘Miller’ に類する例ということにもなりましょう。違いは、「花」ならぬ「粉」という即物的な「営業品目」が換喩的に職業を指す呼称となっているところでしょうか。

しかし話はそれにとどまらないのでした。品目ではなく職業名としての ‘flower’ は ‘fletcher’ に通じ、つまりは「矢矧」とか「矢作」と表記される「やはぎ」、すなわち「矢作り職人」のこと。そっちのほうがより正統的かとも思われます。古英語の ‘floer’ (flœr)はそれに対応するもので、「矢」を指す ‘flā’ の派生語だという話です。どのみち文字表記は現行のラテンアルファベットとはかなり異なりましょうけれど。

一方、同義でもより「新しい」 ‘fletcher’ のほうは、14世紀始め以来の言い方だというのですが、名字としては早くも1203年が初出で、それはつまり、まだ英語としてこなれる以前の(半)フランス語の名前、ということになるのでしょう。古仏語では ‘fletche’ が「矢」だってんですけど、恐らくフランク族の言葉からであろうとのこと。
 
                  

花鳥風月……なんていう「風流」とは無縁の、実に野暮な話ではありましたが、これにて鳥獣に続く植物系の名字についてはおしまいと致します。動植物のうち、結局「動」でも鳥の話ばかりがむやみに長くなってしまったのに対し、「植」は「花」そのものについてだけという寂しい結末とはなりましたが、何せ単純にトリほどの(おもしろそうな)事例が見当らないようですので。

いずれにしても、本来は第4区分たる「先祖の渾名」系の名字が主眼だったところ、大半はそれとは別の、単純に動植物の名称が名字になっている例ばかりを挙げることになってしまい、多少忸怩たる思いではございます。ま、そいつぁもうどうしようもねえ、ってことでどうかひとつ。

今回は「落穂拾い」が主旨という腹積りでありますれば、以下、渾名由来の名字をいくつか、雑駁なまま恣意的に述べて参ろうと存じます。
 
                  

まず、古仏語起源の ‘Bel(l)-’ という、 ‘beautiful’ に類する接頭辞を付された名字というのがございまして、 ‘Belham’ というのがその一例なんですが、てっきり「美しい村」かと思いきや、「イケメン」てな意味なんだとか。同じく古仏語起源の渾名系には ‘Bellamy’ とか ‘Bellmaine’ なる名字もあり、それぞれ「美男の友」「綺麗な手」といったほどの意味なんだとか。第2区分の「土地型」なら、「佳景」を指す ‘Bellasis’ というのもありますけれど。

同じく仏語起源の ‘Bon-’ という接頭辞もあり、こちらは、見た目によらずとにかく「良い」という意味だそうで。 Led Zeppelin のドラマーの名字 ‘Bonham’ はこれを冠した例の1つなんですが、「いいやつ」ってな渾名に由来し、またも ‘ham’ は「地名型」の名字にはありがちな「村」という意味ではなく、「男」なのでした。いずれも根は古仏語ではあるものの、「村」のほうは ‘hamel’ という愛称的派生形だったのが、英語では再び端折られ、結局元の ‘ham’ に戻った形なんだとか。 ‘home’ が同語源の由。 ‘hamlet’ は宛ら「小村」ってところでしょう。一方の「男」のほうは ‘homme’ が原形だというんですけど、どのみちフランス語は、昔のはおろか今のも知りませんし。

蛇足ながら、豚肉の部位たる ‘ham’ は、さすがに、と言うべきか、別系統のゲルマン語源とのことでした。英国では普通、日本で「ハム」と呼ばれている食品を ‘gammon’ ってんですが、食肉業界の本職ででもない限り、一般のイギリス人には ‘ham’ も ‘gammon’ も一緒くた、ってのが実情。以前一度だけ話したアメリカ人なんぞは、イギリス風のハムのことをギャモンってえんじゃねえの? などと言っとりました。それが米国における一般用法なのかどうかはもちろん存じませんけども。

だいぶ前、思い出したようにこれが気になり、ウェブサイトを渉猟したこともありました。しかるに、やれ部位の違いだとか、いや、処理法、加工法の違いなんだとか、言ってることが錯綜してて未だにわかりません。殆ど同義、というのが最も穏当な認識とは思われます。少なくとも、(かつての?)日本における、何の肉かも知れない「プレスハム」なんて食いもんが論外たるは言うに及ばず、みたいな。
 
                  

しまった。またも油断して道を踏み外しちまったい。英語の渾名系名字の例に立ち戻ると致しやしょう。

……と思ったんですが、落穂拾いなどと言いつつ、到底全部拾える道理はないし、事前にどれを拾うか考えているわけでもありませんので、このまま続けていたらまたあまりにも無秩序に長くなってしまうは必定。やっぱり少しは考えて書かなくちゃなるまい、との思いにて(遅いけど)、普段よりは早めですが(普段が長過ぎとは承知)、今回はここで一旦区切り、続きはまた次回ということに。

次こそは何としても本当に終りにしようとは念じております。……と言い出してから暫くになりますけれど。

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