残る「落穂」の中には、米大統領史上随一の英雄(なのか?)の名字、 ‘Kennedy’ ってのもあるんですが、アイルランドおよびスコットランド発祥とは言い条、両者の家系に接点はないらしい。そこがちょいと謎だったりもするようで。大抵はアイルランド系と見られているようですが。
スコットランドとイングランドの境界辺りを発祥地とする ‘Kennedy’ が「深刻(ネクラ?)なやつ」というほどの名であるという一方で、ゲイル語の古い渾名 ‘Cinneididh’ ([スネディ]みたいな)こそ起源だとも申し、それは何と「醜い頭」てな意味だってんです。ほんとかしら。そのまま「ボサボサ頭」を指す ‘Roughhead’ って名字もありますけれど。
別形には、 ‘Kenardy’、 ‘Kannad(a)y’、 ‘Kenne(y)day’、 ‘Kennediem’、それに ‘MacKennedy’ とか、ゲイル語では ‘MacUalraig’ といった派生形も記録に残っているとのことでした。
‘Rich’ なんていう景気のいい名字も見かけたんですが、基本は ‘Richard’ という個人名の愛称形が子孫に名字として伝わった、という第1区分らしゅうございます。一方、 ‘atte (≒ at the) riche’ という記述も見られるとのことで、それだと第2区分の「土地型」、「“小川のそば” に 住む者」といった意味の呼称ということになるようです。古英語の ‘ric’ が「流れ」の意で、中英語の時代にはそれが ‘riche’ となっていた、ってこってしょうか。
あるいはこれ、フランスのロレーヌ地方は「リッシュ」という土地、すなわち ‘Riche’ の住人が、ノルマン征服後に被征服地のイングランドに移住し、そのまま名字も持ち込んだのだ、という説も見ます。いずれにしろ金回りとは関係なさそう。まあ、やっかみっぽい(?)渾名由来という例も珍しくはないのかも知れませんけども。
「金持ち」の ‘rich’ は、「強大」「強力」といったほどの古英語 ‘rice’ が語源とのことなんですが、ドイツ語の ‘Reich’ が「帝国」だってのも、「“富裕” すなわち “権力”」という比喩的発想によるものだとかで、そこは古英語の ‘rice’ も通底するそうな。 ‘Richard’ という名前自体の ‘Ric-’ が、そもそも「強い」って意味だてえし。かと思えば、もともと「王」を意味するケルト語からの借用と説く記述もあり、またぞろほんとの起源は諸説あってわからないと言うしかないのが実情です。14世紀初めには味や色、音などの「豊かさ」を表す用例も見られる由。
そう言やあ、ロレーヌてえと、アルザスだとかモーゼルだとか、まあよく知りもせずに書いてんですけど、半分ドイツみたような所じゃありませんでしたかね(失礼な)。そうなると、その「リッシュ」って地名も、起源は仏語なのか独語なのか……ったって、どのみち元は一緒だろうから、どっちだっていいのか。すみません。
名字としての表記には ‘Rich(e)’、 ‘Richin(s)’、 ‘Riching(s)’、それに ‘Ritch’ などの諸形が認められるとのこと。やはり語源は複数にわたるのでしょう。
さて、そうこうするうち、なんだか肩透かしを喰らわせるような心地もしつつ、いよいよ最後の事例となるのですが、先祖の渾名という括りの中には、その当人(つまり先祖)の口癖とか性癖とか、あるいは単に一度きりの失態に由来するものとか、それどころかそもそもどういう経緯によるものかさっぱりわからなくなってしまった謎の渾名、ってのも少なくはないと申します。いずれも、その後長らく名字として子孫に伝えられるに至ったという次第。そうした例をちょっとだけご紹介。
前回は ‘Good(e)’ ってのに触れましたけど、 ‘Goodday’、つまり「こんちわ」ってな名字もあり、これなどは随分と挨拶好き(?)の先祖がいたってことなんでしょう。かと思えば、 ‘Belch’、「ゲップ」なんていう例もあるってんですが、これもまた単純な渾名系とは限らない、ってより、第2区分の「土地型」ってほうがどうも普通らしゅうございまして。
古英語の ‘Balca’ の転訛だというのですが、それは小山とか尾根とかの住人、ってほどの意味で、もともとはそういう土地に住んでいた者の子孫が、「おくび」かとも思われる ‘Belch’ という名字になっちゃった、という仕儀。たぶん「ゲップ」(ばっかりしてた?)ってよりはそっちの例が多いんでしょう。 ‘Bal(l)ch(e) ’ や ‘Bel(l)ch(e)’ といった別形が見られるということです。
……という次第で、最後まで当面の主旨であった第4区分、「先祖の渾名」に由来する名字に徹することができませず、甚だ締らないままとはなりましたが、これにてこの飽くことなき駄文の連環にも漸く、今度こそ本当に、めでたく引導を渡してやれそうな塩梅ではあります。
「主旨」ったって、『英語の名前とか』なんていう緩み切った題目をも裏切るが如き逸脱を重ねてばかり、まことに忸怩たるところにて。「逸脱」ってのも片腹痛い限りで、話の大半が本筋からは外れどおしではないか、とは重々承知。たぶんそれがなければこれ、全体が現状の一割か二割の分量で終ってたんじゃないかしらと。どのみち今さらもうどうしようもありませんが。
ともあれ、ご無礼致しました。恐縮至極。
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