さて、20回めの投稿で触れた ‘Good’ と ‘Bad’ という名字についてあれこれ読んでいたとき、前者の最高峰とも思しき ‘Best’ って名字に思い至り、その由来も確かめてみたところ、かなり意外な語源説が知れ、軽く驚いたのでした。てっきり「最良」「最高」かと思いきやそうでもなかった、ってなところでして。でもそのときは、とにかく何とか話を終らせないと、との了見から、まあほっとくか、と思っちゃって。
この ‘Best’ という人名、古英語、いわゆるアングロサクソン時代の渾名で、何かと「強いやつ」、ってな意味だったともいうのですが、それとは別系統かも知れないものの、語源を遡るとラテン語の ‘bestia’ に行き着き、それが古仏語の ‘beste’ を経て ‘best’ とはなった……ようです。でもその語義は、何と ‘beast’、「獣」であり、渾名とすれば、「獣のように野蛮な(強靭な?)やつ」ということらしい。それよりは、職業由来の名字で、先祖が牛飼いとか羊飼いとかだったから、ってほうが信憑性は高いような気は致します。結局しかとはわからない、ってところは相変らず。別形として ‘Beste’ と綴る名字もあるようですけれど。
なお、 ‘good’、 ‘well’ のいわゆる最上級たる ‘best’ は、 古英語の、これも ‘beste’ なる語の変形とのことなんですが、それ自体がより古形の ‘betst’ からの転訛だとのこと。「一番」ってほどの意味だと言いますから、現代語の ‘best’ と相通ずるものの、元来は ‘bōt’ の最上級ということで、その ‘bōt’ の語義はてえと、「解決策」とか「償い」だってんです。中英語の時期にはそれが「利点」とか「有益性」などを意味する ‘bote’ に転じたんだとか。
今日の慣用句に、多少古風ではありますが、「加えて」とか「そのうえ」といった意味の ‘to boot’ というのがあるんですが、この ‘boot’ は「利益」や「効用」を意味する古語の遺存したるものにて。それも件の ‘bōt’ から派生したものなんだとか。元来は、取引における一方の当事者が示す付加的条件についての言い方だった、とかいう話ではありますが。
いずれにせよ、元来は起源を異にする ‘best’ (および ‘better’)を、 ‘good’ や ‘well’ の活用形として用いるのは、どうやら流用と呼ぶべきものではあるのでしょう。その意味での輝かしい渾名に由来する ‘Best’ 姓もなくないにしろ、渾名だとしても、恐らくは ‘beast’ の原形を起源とするほうが多かろうし、それよりは、やはり動物を扱う職業に由来、ってのが最も実際的な事例ではないかしらと。
ピート・ベストの先祖がどれに該当するのかは、当人だって知りようはないでしょうけれど。
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