それはさておき、「ノリ」または「ビート」のこと。「臨床例」の追加ってわけでもありませんが、ディープ・パープルでまた思い出したことがございまして。
奇しくも5年遅れで「ミシシッピ・デルタ」を知った72(昭和47)年夏、後にライブアルバムの傑作と賞される ‘Made in Japan’ (日本じゃあ洒落のない「ライブインジャパン」だけど)を生み出すことになる日本公演が行われ、実はあたし、ちょうどその武道館公演の日程と同時期に、偶然青森くんだりから、武道館とは遠からぬ文京区本郷の姉貴んちに泊りがけで遊びに来てたってのに、それ全然知らなくて……。ってことはどうでもよくて、その2枚組のライブアルバムを、2年ほど後に友達から借りて聴いたところ、例の ‘Smoke on the Water’ のイントロに合せて聴衆が手拍子打ってるじゃありませんか。当時はあたしもまだ青かったのか、それが何だか妙に「日本的」でちょっと恥ずかしい、などと思っちゃって。
それにしても、このイアン・ギランの口上、自分にとっては理想的なイギリス弁。英語はこんな感じでしゃべりたいもの、とは思っとります次第にて。
閑話休題。バックビートってのがわからず、オンビート、つまり強拍=奇数拍だけで手を打ち鳴らす、ってんなら、そりゃやっぱりロックコンサートにはあるまじき野暮とはなりましょうが、観客(大阪での録音)は4拍全部で手を叩いてんですよね。言わばEDMの4つ打ちにも通ずるノリ……ってより、ヘッドバンギングに至るヘビーな音楽としてはむしろそれが正統なのではないかしらと。これまで述べてきたあたしの勝手な了見では、それで何ら間違いじゃないどころか、この「ハードな」曲の、このテンポなら、かつての「作法どおり」、オフビートだけに手拍子入れちまったんじゃ、オンビートだけで手を打つのに匹敵するダサさ、とさえ言いたくなるってなもんで。
ああ、EDMで思い出した。つい安直にそれを引合いに出しましたけど、ありゃあ何せ‘E(電子?)’ってくらいのもんで、ハナから全部、人間ワザなら到底あり得ないような均等ぶりが売りなんでしょ。知らないけど。打込みではなかなか再現できないのが、人間の演奏者だったら上手い下手を問わずよんどころなく表れる「揺らぎ」のようなものであり、それがきれいさっぱり洗い落されちゃうのが電子式……って、今さらのように思ったりして。遅いか。
休題閑話。とにかくまあ ‘Smoke on the Water’ のイントロ、まずは型どおりギターだけで始まり、次にハイハットの16分のみ、それにスネアが加わって……っていう具合に、ドラムが小出しに交ざってくるんですけど、そのスネアが入ってきた時点では、古来の作法どおりバックビート、2拍4拍が目立つことにはなり、それに手拍子を合せるなら、やっぱり1拍めと3拍めは黙ってるほうがいいのか、って見方もなくはないのかも知れませんな。でもね、イアン・ペイスがそれやってんのは、飽くまで曲本体のノリが始まる前の。言わば勿体つけの部分でげしょ。ずっとそのままだったらあの曲自体が成り立たんでしょうよ。歌が始まると、当然ハードロックの礼法どおり、バスドラによってオンビートにも随分と重さが付され、とても「スウィング」的な偶数拍だけでノっちゃあいらんなくなるし、その前のイントロのうちから参入してくるロジャー・グラバーのベースも8分均等の刻みで、いずれにしろ弱拍、オフビートだけを強調したバックビートのノリは封殺されてますよね……とは誰も言わないようだけど。
自分が日本的でカッコ悪いと思ったのは、手拍子の位置や数ではなく、どうも手拍子そのものに対しての感慨だったようで。当時は全然気づかなかったけど。なんかそれだと歌謡曲っぽくねえか?ってのが胸懐だったような。そもそも日本人が日本的でどこがカッコ悪い、という極めて穏当な意識も、70年代前半、15歳の自分には欠けておったというところでしょうか。ま、ガキだったてえことで。
でもまあ、やってる本人たちにとっては飽くまで「古典的な」バックビート、ってことは、リッチー・ブラックモアがわざわざ一旦リフを止め、2小節ほど偶数伯だけ弦をミュートした音を鳴らして何とか「無知な」聴衆を正しいノリに誘導しようしている、って様子からも明らかなのですが、一部ではそれも夙に指摘されるところ。結局観客の手拍子は変らず、諦めてリフを再開するんだけど、そのときギランが ‘All right’ と言ってんのは、「しかたない。このまま行こう」って意味だったか、ってのも、そのつぶやきがちの口調から、後になって思い至ったことでした。ほんとはどうかわかんないけど。
でもそれ、決して大阪人、おっと日本人に限った「間違い」じゃないってことは既述の如し。それがわかっていない日本人の「識者」も多く、毎度辟易。
ときにこの曲、まあ時代の差ってのも大きいんでしょうけど、2012年にカルロス・サンタナがジャコビー・シャディックスとやらのボーカルでやったやつ(オリジナルを収録した ‘Machine Head’ の40周年記念企画、アルバムまるごとトリビュートっていう 'Re-Machined’ 所収)のほうがよっぽどヘビーで、バックビート感はさらに稀薄、ってより全拍の強烈ぶりがさらに顕著、って感じなんですが、やっぱりそんなこと言ってんのはあたしだけ?
えーさて、こういう「ンロール」なしの「ロック」のノリ、あたしが言うところの「バックビートだけじゃしょうがねえだろ」っていうリズムの形態はいつ頃、どの辺から始まったものなのか、ってのが気になるところ。
ロックとロックンロール(英語では近年まで基本的に同義)を隔てる(と勝手に思ってる)「バックビートが目立つか、全部の拍が容赦なく強烈か」っていう違いは、まあ60年代に生じたものだとは(勝手に)睨んどるんですが、でもそれ、いつごろの話なんでしょうかしらねえ。自分でもわかっちゃいないし、それ以前に、そんなこと言ってるやつにゃ会ったこともないんだけど、引き続きあれこれ考えながら書き散らして行こうという横着な了見にて。
ひとまず、今どき(ここ50数年来)のロック、つまり「ンロール」の付かないやつはちょいと置いといて、ロック音楽の初期型たる50年代のやつをちょいと聴き直してみました。YouTubeの効用ですな。プレスリーとチャック・ベリーをそれぞれ何曲か、あとビル・ヘイリーの例のやつを聴いてみたんですけど、「ノリ」が確かめられればそれでいいのに、短いから結局全部最後まで聴いちゃった。
とにかくまあ、それで改めて思ったのは、弱拍(offbeat)たる2拍、4拍に強勢が置かれたバックビートこそがロック(ンロール)の特徴だとは言いながら、その ‘backbeat’ という言葉自体の初出が、ロックもロールもまだなかった20年代後半、ロック登場のざっと20年前だってことから推しても、やっぱりそれはむしろその頃、つまり戦前に流行り出したスウィング音楽(ブルースもカントリーも同断ではあるけれど)について言い出したものなんじゃないか、っていうことなんです。既に何度か(何度も?)述べておりますように、偶数拍で思わずノっちゃうのは、拍自体が相対的に単調なロックより、圧倒的にジャズのほうなんですよね(70年代以降はそうとも限らなくなってますけど)。
それでも、4拍全部ガンガン行かなきゃハードにゃならねえぜ、っていう、「ンロール」のとれた「紫のけむり」(煙なのかな、あれ?)のような「ロック」の事例に比べれば、やっぱり古い時代のロックンロール、どれもちょいとスウィング的な要素、とまでは言わずとも、2拍4拍により重みを置いた風情ではございます。単にその位置でスネアが叩かれるからってことでもなく、それなら「ンロール」なしのほうだって何ら変らないどころか、いちいちリムショットを利かせた強烈なスネアのビートこそ、60年代以降のロックドラムの作法、とも思われますし。
ああ、この「リムショット」って言葉、縁(へり)「も」打つっていう ‘open rim shot’ が基本義かと思ってたら、スティックを寝かせて縁だけ鳴らすという ‘closed rim shot’ の意味しか知らない人もときどきいて、それだと随分穏やかんなっちゃうからまったく話が通じず、「何言ってんのおまえ?」って呆れられたりして。そいつぁこっちの台詞じゃねえかい。ビートルズの ‘In My Life’ って曲なんざ、何がカッコいいって、曲調から想定されがちな「おとなしさ」を見事に裏切る、リンゴの容赦のない全面的なリムショット……なんですけどねえ、自分にとっては。やっぱり誰もそんなこた言わないけど。
因みに、この ‘In My Life’ の歌詞に関しては、以前のブログでちょいと文法的な言及を為してしておりました。つい思い出しちゃって。
またも閑話休題。とにかく、スネアも強烈だけど、それに負けず劣らず、1拍めのキック、バスドラだって容赦なくデカくて、何よりスウィングの声風に通ずるような、偶数拍でだけ体を揺らすなんてノリ方は到底許されないってのが(どこで揺れようが各人の勝手だけど)、ジミヘンその他の「新しい」部類のロック、ってことなんじゃないかしらと。音の大きさより、やはり拍自体の長短の具合こそ肝心なのかも知れず、「進化した」ロックほどそうした長さの揺れが稀薄(ってより皆無?……それじゃEDMと変らねえか)ってことなのかも……ってこれ、かなりテキトーに言ってんですけどね。
それで思いついたんですが、60年代以降の「ロック」バンドが、50年代「ロックンロール」のカバーやってるってのが結構あるじゃござんせんか。そういうのとオリジナルを聴き比べりゃ、両者の相違の源が那辺にありや、自ずと知れようじゃねえかてえ、またぞろ安直な了見。次回はそれを。
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